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咬み合わせの歴史歯科治療
咬み合せの歴史 その11
少し専門的な解説です。
「咬み合せの歴史」を書くに際し、大阪歯科大学図書館が所蔵している咬合、顎関節、総義歯の書籍と関連する学会誌約350冊に加えて、「オクルージョンの臨床」第2版の訳者の川村貞行先生から頂いた1900年代初頭からのアメリカで発表された咬合に関する論文、初期のナソロジーの大家の舘野常司先生から当時のお話と資料を頂き、金属焼付けポーセレン開発者の桑田正博先生からも当時のお話と資料を頂きました。
これらの情報を年代別に分類分析し、咬合理論の経時的変化を踏まえてまとめています。
Angelo D’Amico
The Canine Teeth, Normal Functional Relation of the Natural Teeth of Man, 1958
保母須弥也 監訳
ナソロジーの咬合理論 その⑤
犬歯誘導へ その1
1958年D’Amicoが発表した論文では有歯学のフルバランスを否定して犬歯による誘導を提唱しました。つまり、総義歯から続いていたフルバランスといわれる下顎を動かした時に常に全ての歯が接触している状態ではなく、有歯学では最大咬頭嵌合位(全ての歯がしっかりと咬んだ状態)、から下顎運動時(下顎を左右、前方へ動かした時)は犬歯だけが接触して他の歯は接触しない状態が良いと考えました。
D’Amicoの理論の基礎になったのが自然人類学的立場から、約200万年前から人も含めた霊長類の天然歯の起源と進化を分析し、人の理想咬合として犬歯誘導を提唱しました。
但し、現存する殆どのスカル(頭蓋骨)に残っている歯は磨耗しています。その一部に磨耗が少ないスカルがあり、それを理想の咬合と考えたと推測されます。
1960年ナソロジーはD’Amicoの論文を基に「ミュチュアリー・プロテクテッド・オクルージョン」の概念を発表しました。この考えは犬歯が滑走運動時(下顎運動)に咬頭(咬み合う時に接触する部分)を持つ臼歯と前歯を保護し,臼歯の咬頭は嵌合(上下の歯が咬み合う)することによって中心咬合(全ての上下の歯が接触する)を保ち,前歯を保護する。さらに前歯は切端で咬合(下顎を前へ動かした時)する時に臼歯の咬頭を保護するという考え方です。
「ミュチュアリー・プロテクテッド・オクルージョン」を要約すれば臼歯は前歯を、前歯は臼歯の咬み合わせを保護すると解釈できます。