6月総会
先週末は年一回の大阪デンタルリサーチグループの総会が開催されました。外部講師として口腔外科医でインプラントの臨床と研究をされており、私の大学の同級生で、芦屋で開業されている野阪泰弘先生に講演していただきました。最近ではインプラント治療が広く浸透し、ほとんどの歯科医院で治療が可能になりました。しかしながら失敗ケースも多くあります。そのような中で10年以上に渡って歯科医院からの紹介も含めてインプラントがうまくいかなかったケースのトラブルケースを対処されてきた先生です。論文の引用ではなく常に自分が臨床された症例を分析研究された上での結論を述べられるので説得力があります。
今回は有馬温泉での開催でしたので旅館での宴会も含まれていたので、お酒が入って夜遅くまでいろいろな貴重なお話を聴けました。
大阪デンタルリサーチグループ総会
私が見てきたインプラントの歴史 その9
インプラントはすばらしい治療方法です。
インプラントの歴史と共に、さまざまな問題点も解説してきましたが、私の個人的な意見ですがインプラントは2005年頃から急速に進歩したように感じています。
その理由はインプラントに参入するメーカーが飛躍的に多くなったことと、CT撮影と共にその画像分析のためのソフトが進歩しました。また、そのCTのデータを基に最も適切なインプラントを埋入する方向、長さ、幅が事前にわかるだけではなく、できるだけ正確に埋入するためのガイド(コンピューターシュミレーションと同じ方向に骨に穴を開けるための器具)を作成する事ができるようになるなど。周辺機器がかなり早く進化し続けました。その結果、より正確で確実なインプラント手術が可能になり、成功率が向上すると共に、特殊ではない治療になってきました。
但し、体は進化しているわけではないので問題が全て解決したわけではないので、もしインプラントを選択されようとする前に基本的な知識を得られることが大切なので、私の知っている基本的なことを解説させていただきました。
これらのことを理解されたうえで決められることをおススメします。
私が見てきたインプラントの歴史 その8
現在のインプラント治療は今までの治療方法を大きく変える方法です。義歯の悩みをなくするだけではなく、健康な歯を削ることを最小限にできる方法でもあり、失った歯を再生することができるすばらしい方法です。
しかしながら、良い面ばかりではなく、今まででは考えられなかった新たな問題が起こるようになりました。今後はこれらの課題にどのように取り組むかがインプラント治療には最も大切なことです。
<インプラント手術後>
インプラントは体の再生能力と免疫能力を利用した治療です。そのため、インプラントが埋入された周囲の骨がインプラント周囲に新たな骨を造成することで、インプラントと骨が一体になって機能することができます。
しかしながら、インプラント周囲の骨が何らかの原因で造成しないで骨と一体にならない場合があります。
<インプラント治療後に数年経過してから>
インプラント周囲に骨が造成され治療が完了している場合も、数年後に造成された骨が失われる場合があります。このような場合はインプラント周囲を何らかの処置を行い、近年のインプラントは機材、術式などかなり研究され高い確率で成功する治療方法になってきました。
しかしながら何事も100%ではないのと同様にインプラント治療の数パーセントは残念ながら問題が起こってしまう場合があります。これらの問題の原因も研究されてはいますが、まだ完全には解明されていない点もあります。
このような点も十分理解した上でインプラント治療を選択されることが大切です。
私が見てきたインプラントの歴史 その7
CT診査の向上により、インプラントを埋め込む部分の骨の幅と長さ、骨の状態を術前に知ることが可能になりました。その結果、術前にかなり正確な診断と治療計画を立案することができるようになりました。しかしながら、インプラント部分の診断だけではなくお口全体の診断が大切なのです。
<残っている歯の診査診断>
インプラント治療において最も大切なことが、残っている歯を出来るだけ長く使うための予防と治療です。インプラント治療が終わっても、残っている歯を次から次へと失って他のところもインプラントにならないためにも、インプラント部分だけではなく残っている歯の状態の診査診断が重要です。また、残っている歯を長持ちさせることがインプラントを長持ちさせることにもなります。
<咬み合わせ>
歯を失う原因はムシ歯や歯周病の原因の細菌をコントロールすることと、咬む力によって歯を壊さないようにする力のコントロールが重要になります。インプラントはしっかりした歯が新たに増えるため、治療後は確実に咬めるようになります。
しかし、この咬めるようになることが問題になる場合があります。インプラント治療の前は咬む力が弱かったから耐えられた残りの歯に対して、今まで以上の力が加わるからです。このことで、残りの歯が壊れたり、歯周病が悪化する可能性もあります。
だからこそ、残っている歯への診断と治療と共に術後の定期的な咬み合せのチェックが重要になります。
医院サイトはこちらhttps://www.tobitadc.jp/
私が見てきたインプラントの歴史 その6
CTとシミュレーション技術の進歩
<初期の画像> <現在の画像>
インプラントは骨の中に埋め込む手術なので、事前に骨の中の状態を立体的に知ることが大切です。
1900年代は従来のレントゲン写真による2次元の解析しかできませんでしたが、CT撮影と画像の解析技術の飛躍的な進歩によって立体的な診断が可能になりインプラントをより正確な治療方法になりました。
あくまで私の経験からの見解ですが、1988年に開設されたインプラント専門の新大阪のオッセオインテグレーションインプラントセンターへ、2005年に研修に行きました。
当時のインプラントの準備、手術法、術後管理などの基本的な考え方を教えていただきました。なかでも術前のCT撮影の大切さを痛感しました。
しかしながら、当時の岡山市内では歯科用のCTが無かったため、CTの研究をされている岡山大学の先生に依頼していました。医科用のCTで撮影し、そのデータをインプラント用に解析していただきました。当時としては術前に骨が立体的に見えることは画期的で感激したことを覚えています。
その後は、コンピューターと画像解析とシミュレーション技術が格段に進歩しCTも普及してきたので、より鮮明な画像とミリ単位の精密な計測と正確な診断ができるようになりました。
今では埋入するインプラントの形状をそのまま入力することが可能になり、3次元であらゆる方向から確認できるようになり、術前の診断は格段に向上してきました。
改めて、以前と比較すると近年の機器のめざましい進歩を痛感すると共にインプラント治療の成功率が向上したと考えられます。
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私が見てきたインプラントの歴史 その5
開発時のブロネマルクのインプラントは、下顎の無歯顎(歯がまったく無い総義歯)の方への治療方法として考案されました。
特徴は、材質はチタン合金、数本の長いインプラントを深く骨に埋め込むこと、インプラントを埋めてから3~4ヶ月間はインプラントの周囲に骨ができるのを待つこと、インプラントの上部の歯は全て連結することが基本とされていました。
その後は、下顎臼歯へのインプラントが行なわれるようになりました。但し、長いインプラントを3本以上埋入することと共に、咬む力に耐えるために3本の上部(歯の部分)が面(3点を結んだ線の内部)になるような設計が考えられていました。
そして、下顎に比べて骨の密度が少ない上顎にまで適応症を広げ、フリースタンドといわれる1本だけでも大丈夫になり、短いインプラント、細いインプラントへと可能になりました。
その次には、骨が少ない部分にも骨の移植や再生が行なわれるようになり、時間と費用の問題さえ解決すれば、ほぼどのような状態でもインプラントが可能になりました。
その後は、より早く咬めるようにという要望にこたえるように、インプラントを埋め込んだその日に歯を入れて咬めるようになるところまで変わってきました。
確かに2005年以降のインプラント関連の機器や検査方法、術式は飛躍的に進歩してきたと感じていますが、体は変わっていないこととその歴史を理解しておくことは大切かと考えています。
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私が見てきたインプラントの歴史 その4
歯周病専門医 VS インプラント
歯周病専門医の中では、当初からインプラントに対して否定的な考えが主流でした。私が歯周病の研修施設で学んでいた著名な先生も、私が所属している大阪デンタルリサーチグループ(1962年創立)もインプラントは長期安定する治療方法ではないという見解でした。
確かに当時の歯周病の論理からするとインプラントは論理矛盾する点が多かったのです。その論点がインプラントと骨は結合したとしても、インプラントと粘膜(歯肉)が付着するという理論がありません。
歯と歯ぐきの境目の構造は、歯ぐきから歯の根に向かって繊維が伸び、その繊維と歯の根が結合しています。ところがインプラントの場合は、歯ぐきとインプラントは接しているだけで結合することはありません。
そのため、その隙間から細菌が進入して骨が感染する危険性が高いため、長期安定するのは難しいという考えでした。そのため、当時の歯周病専門医からは反対意見が多く聞かれていました。
また、整形外科からも 「 骨から粘膜を貫通している物質が感染しないはずはない 」 とも言われていました。しかし、チタンのブロネマルクタイプのインプラントが広まり、良い結果が得られるようになると、徐々に認められるようになりました。
しかも、医科でも応用されるようになり成功例が多くなってくると、インプラント治療は認められるようになり加速的に広まっていきました。そして長期安定している症例も出てくるようになると、インプラントを肯定的に捉える歯周病専門医が増えていき、インプラント独自の理論が確立していきました。
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私が見てきたインプラントの歴史 その3
ブロネマルクのシステムが発表されてからは、常に注目されるインプラントになってきました。1980年後半になると徐々に都会の一部の先生がブロネマルクのシステムを導入されるようになり少しずつ広がってきました。
1990年代になると、アメリカでブロネマルクのシステム(形も)3Iというインプラントが発売されて注目を集めました。その理由は全く同じシステムで(ほぼコピー)価格がかなり安価になったからです。
私はこのことがきっかけになったように思えたのですが、これ以降は世界中の各メーカーが同じシステムのインプラントを開発するようになり、徐々にブロネマルクと同じシステムのインプラントが発売されるようになりました。
そして、現在では世界中のほぼ全てのシステムが、このブロネマルクと同じ考え方となっていますので、思い返せばインプラントの基礎となったと考えられます。
余談ですが、
当時の噂話です。ブロネマルク博士の功績は近代歯科医学の中で最も優れた発見なのでノーベル賞に値するといわれていました。
しかし、財団内の研究員だったためノーベル賞を受賞できなかったと聞いています。また、インプラント治療への研究・開発を妨げることを避けるため、あえて特許を取らなかったことで、現在のインプラント治療の普及があると考えられます。
実際、現在発売されている多くのインプラントの材質と手法が当時と変っていないことや、医科(特に整形)の分野でも体内に入れる金属がチタンになったことからも、ブロネマルク博士の素晴らしい功績が良くわかると思います。
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私が見てきたインプラントの歴史 その2
ブロネマルク インプラント 登場!!
チタンが生体に取り込まれる写真です。
東京での勤務時代には都内の研修施設で最先端の歯科医療の技術を学んでいました。その施設で新たに輸入されたブロネマルクというインプラントを紹介されました。それがノーベルバイオケア社の開発したインプラントです。
このインプラントはノーベル賞で有名なノーベル財団の研究機関の研究員であったP・I・ブロネマルク博士(スウェーデン人)がチタンと骨とがオッセオインテグレーション(しっかり結合する)することを発見し、
このインプラントは既に1965年から臨床で応用されていましたので、日本国内に紹介された1986年当時は、既に20年近くの臨床実績がありました。当時の国内のインプラントは5年もてば良い成績だといわれていたので、その臨床実績に衝撃を受けたのをいまだに覚えています。
但し、当時の状況としてはブロネマルクのインプラントがさまざまなインプラント治療の中のひとつでしかありませんでした。ただ、今までには無い発想とノーベルという肩書きと長年の臨床結果から信用してもいいかもしれないと思わせるだけのアドバンテージがあると感じていました。
しかし、このインプラントは導入するのに高度な研修と手術室が必要で機材は800万円以上という条件のため、私には夢のような治療方法でしかありませんでした。
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私が見てきたインプラントの歴史 その1
インプラントと言われる骨の中に人工物を埋め込んで歯を再生させる治療は、紀元前から行われていたと古い文献に記述されているようです。近代歯科医学でのインプラント治療は1940年代から行われていました。
私が卒業した1985年頃のインプラントは、新たな商品や治療方法が次から次へと発表され多種多様な種類がありました。私が記憶しているだけでも
●骨膜下インプラント(歯ぐきと骨の間に埋め込む)
●ブレードタイプインプラント(骨にスリット状の穴を開けて埋め込む)
●歯内骨内インプラント(歯の中を突き抜けて骨の中まで埋め込む)、
●サファイアインプラント(骨の中に埋め込むのですが材質がサファイア)
●形状記憶合金インプラント(骨の中に埋め込んだ後、金属を広げる)
などです。
記憶に頼らなければならない理由は、これらのインプラントが現在では全く見ることができないからです。
私は大阪の歯科大学を卒業して東京都港区の歯科医院に勤務しました。当時のインプラントは歯科大学でも研究が主で学生の教育は全く行われません。そのため、インプラントを学ぶには専門誌、インプラント業者の講習会、インプラントを行っている数少ない歯科医からの情報しかない状況でした。
私が勤務した医院では、京セラが開発したサファイアインプラントの治療が行われており、院長や先輩の歯科医師から指導を受け、講習会への参加することでインプラントを学び治療を行うことができました。これが私のインプラントの出会いです。
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